短い万年筆って知ってる? PILOTの万年筆:エリート95S【レビュー】
ショートサイズとも呼ばれる万年筆で、昭和の時代に発売されていた万年筆の種類のひとつだ。
その名の通り、短くてコンパクトなボディが特徴。
国産ではPILOT・プラチナ万年筆・セーラー万年筆がそれぞれ発売していたが、自然消滅してしまっていた。
そんなショートサイズの万年筆だが、現在PILOTだけ販売している。
今回はそんなPILOTのショートサイズ万年筆「エリート95S」を1年使ったレビューをしていく。
こんな人にオススメ
- 高級感のあるお手頃な万年筆ってない?
- 手帳にも使えるコンパクトな万年筆が欲しい
- 胸ポケットに挿しても違和感のない万年筆を探している
PILOT『エリート95S』は短くて使いやすいショート万年筆
PILOTの「エリート95S」は希少なショート万年筆だ。
短くてコンパクトなのが大きな魅力である。短いということは、即ち軽いということ。軽いから、胸ポケットに入れても違和感がない。
胸ポケットに万年筆をさして移動する人はあまりいないかもしれないが、使いやすいことに間違いはない。
またそのペン先も独特で、フーデッドニブを採用している。
先端に向けて流線型のデザインをしているから、めちゃくちゃオシャレ。
かといって筆記時も短いのかと言われると、そんなことはない。
短くなった鉛筆のように持ちにくいのでなく、キャップを後ろにつけることで通常の万年筆と同じ長さになる。
実用面でも何一つ妥協していないのは、さすがPILOT。
往年のモデルらしい使いやすさ・オシャレさを両立させた万年筆なのである。
PILOT『エリート95S』レビュー
エリート95Sは、PILOTが発売している万年筆だ。その歴史は古く、昭和43年まで遡る。
当時は「エリートS」として発売し、入学祝い・就職祝いとして若い世代に大ヒットしていた。
あの大橋巨泉も愛用していた商品で、「はっぱふみふみ」という名言を生み出している。昭和世代の人なら耳にしたことがある言葉だ。
持ちやすいサイズに加え、15gという軽さが大きな特徴。
実は根強いファンも多く、人によっては全てのペン先を揃えている猛者もいる。
使い心地①:短くて使いやすい
ショート万年筆というくらいだから、当然ボディは短い。119mmと、なんと12cm未満。
上の画像を見てくれればわかるように、かなり短い。一般的な万年筆と比較してみても、その短さが良くわかる。
一方で、キャップポスト(キャップをペンの後ろにつけること)をすると、あら不思議。長さが同じになる。
一方で、キャップポスト(キャップをペンの後ろにつけること)をすると、あら不思議。長さが同じになる。
なので「サイズが短いんだから書きにくいんじゃないの?」という疑問は、解消されたと言っていい。
- 持ち運ぶ時は短くスマートに
- 書く時は長く普段通りに
良いとこ取りをした万年筆なのだ。
使い心地②:ペン先がしなやか
エリート95Sのペン先は、ペン先とボディが一体化している「フーデッドニブ」だ。指の爪のようなデザインとなっている。
個人的にめちゃくちゃ好きなペン先だ。かの有名なウォーターマンのカレンもそれに当たる。
しかしこのフーデッドニブ。デザインは突き抜けているのだが、ペン先が硬いという大きな弱点がある。
当然だ。ボディとペン先が一体化しているのだから、通常のペン先のような〝しなり〟を生み出しにくい。
だが、そこはPILOT。熟練の腕の見せ所。
ペン先を金ペンにすることで解決してみせた。
エリート95Sのペン先は、14K。14Kとは金の含有量のことで、58.5%含まれている。つまり、半分以上が金。凄い。
当然だが、金はステンレス(鉄ペン)よりもしなる。フーデッドニブでも心地よい書き味に仕上がっている。
僕はエリート95SのM字幅(中字)を使っているが、同じ字幅のコクーンより圧倒的に書き心地が柔らかい。
使い心地③:キャップポストがめちゃくちゃ気持ち良い
これはもう好みの問題になってしまうのだが、エリート95Sはキャップポストした時の感覚がすんごい気持ち良い。
そりゃ、キャップポストして使う前提なのだからこだわって作られていて当然なのだが、それにしたって気持ち良い。
無理矢理入れている感覚もないし、「カチッ」という音もしない。
ただ、すっ――と入っていく。例えるなら、賞状を入れる筒から蓋を取る感覚。無意味に何度でもやりたくなる。
小さなことだが、ここにもPILOTの商品へのこだわりが感じられて、好感を持てる部分だ。
使い心地④:カートリッジとコンバーターの両方が使える
コンバーター激オシのPILOTらしく、エリート95Sももちろんカートリッジとコンバーターの両方が使える。
事務的に使いたいならカートリッジ。
インクを楽しみたいならコンバーター。
というように、使うシチュエーションに合わせて使うことができる。
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気になるポイント①:デザインはザ・万年筆
エリート95Sは選べるデザインの幅が少ない。国産万年筆らしいといえばらしいのだが、残念なポイントでもある。
- 黒
- ディープレッド
以上の2色のみ。
ディープレッドは男性向けというより女性向け。色合いは優しいので、男性でももちろん使える。
欲を言うなら、もう少し色の種類が欲しかった。
ザ・万年筆な色が嫌だという人には少し残念な部分だろう。
気になるポイント②:字幅の種類が少ない
エリート95Sは字幅が少ない。
- EF:極細(0.28mm)
- F:細字(0.38mm)
- M:中字(0.5mm)
の三種類しかない。
万年筆はインクが滲むので、表記している太さより一回り太くなるイメージを持てば、大体想像できると思う。
エリート95Sのコンセプトが、「ワイシャツのポケットにぴったりサイズの万年筆」なので、仕事で使う用とすれば適切な字幅ではあるのだが、太字が好きな人には合わない。
気になるポイント③:コンバーターのインク残量が見えない
個人的に一番のマイナスポイントがこれだ。
写真を見てもらえればわかるように、インクタンクが全く見えない。あとインクがどれだけ残っているか、把握する方法が全くないのだ。
これがカートリッジなら、逆さに向ければインク残量がわかるのだけど、コンバーターだとインクを吸入する機構しか見えないから、マジでわからない。インク切れの不安と常に同居しなければならない。
コンバーターを使っておいてなんだが、エリート95Sは素直にカートリッジを使うことをオススメする。インクは別の万年筆で楽しんでくれ。
PILOT『エリート95S』は使いやすい1万円ぽっきりで買える破格のショート万年筆
エリート95Sは使う場面を選ぶも、短い軸という希少性に加え、14Kのフーデッドニブに取り回しの良さなど良い部分が光る。
唯一の個性を付加価値で更によくしてくれているのだ。
しかも1年ほど使っていて気になる部分は、紹介した3つくらいしかない。気にならないのであれば、間違いなく満足させてくれる万年筆だと断言できる。
- 持ち運びやすい万年筆を探している
- 使いやすい金ペンの万年筆がいい
- 他の人とはちょっと違った文房具を使いたい
こんな人にオススメだ。
ただフーデッドニブは人によっては使いにくく感じる可能性がある。
不安な人は、「銀座 伊藤屋」や「丸善」のような高級筆記具を取り扱っている文房具店に行ってみてくれ。
確実に置いてあるだろうから、試筆すれば書く感覚がわかるだろう。