TSで獣っ娘が好き? よろしい。ならば『TS狐娘は語られたい』を読むといい【レビュー】
TS獣娘、最高だ。
それが狐と? ふむ、よろしい。大好物だ。
獣っ娘界隈では絶大な人気を誇る狐娘へTS(トランスセクシャル:男→女、女→男)してしまったら?
という一部の人には突き刺さるであろう性癖をこれでもかと押し出した作品が、『TS狐娘は語られたい』だ。
作者はキヨ氏(Twitter)、イラストはあるか氏(Twitter)で送るライトノベルである。
設定は良くあるものだが、最大公約数的に一般受けするものじゃない。しかし、個人的に感じ入るものがあったので、広めたいという思いも込めて今回は書いていこうと思う。
TSに狐娘を組み合わせる性癖
いいね、好きだよ、僕も。
『TS娘は語られたい』は、AmazonのKindleで販売されている個人出版のライトノベルだ。そのため、作者の好きな作品を生み出せるのが最大の利点。
この作品もその例に漏れず、作者のきよ氏のやりたいこと、書きたいことが詰まっている。詰まって溢れている。
物語の導入部を纏めると、以下になる。
主人公は、会社に通いながらたまの休みにフィールドワークをするオカルト好き。彼はそんなある日、とある田舎の山中をフィールドワーク中に事故に遭い、命を落としかける。謎の声によって命を助けられた主人公の目が覚めると、そこは田園風景豊かな田舎だった。主人公は何故か自分がTS(性別変換)した上に狐娘になっていることに戸惑うも、村から「狐さま」として崇められている現実に直面する。中身はおっさんなのに、外見はすこぶる可愛い狐娘。男としての矜持を守りつつ、彼は村と自分を取り巻く怪異絡みの問題に首を突っ込んでいく――。
というのが、簡単な内容だ。
『TS狐娘は語られたい』の魅力
物語の魅力としては、
- 中身が男だからこそ、可愛い女の子である姿に悩む
- 魅力的なキャラクターたち
が大きくわけてある。
男であるが故に適当にしてしまう姿と、「いやいや女性用の服とか無理」という共感しやすい要素が非常にわかりやすい。せっかく女になったんだから覗いてやるぜぐへへへ、なんてことも一切無い。しっかりと「男としての自分に矜持がある」のは、純粋に好感が持てる主人公だ。
キャラクターたちも魅力的で、主人公をサポートするヒロインのカナや、狐様について何かを知っている村長(カナの祖母)、優しい村人たちや妖怪たち……。
それぞれのキャラクターがしっかり生きているし、何より主人公がいなくても世界が続いていると感じられる世界観がある。
主人公のためだけに用意された世界でもなく、主人公だけに都合が良い世界でもないので、主人公は当然傷つくし、周囲のキャラクターたちも悩みを抱えている。
当たり前といえば当たり前なのだけど、それらをできていない小説が増えている昨今、丁寧に作られた作品だと言える。
気になるところ
しかしまぁ、良いところばかりじゃない。
このブログは忖度無く良いところと悪いところを書くブログだ。なので、気になったポイントを挙げていく。
- 漢字の開きが少ない
- 会話文の中に会話文が入る
- 山場があっさり終わる
以上の3点は、特に目立つだろう。
漢字の開きが少ない
文章内で漢字とひらがなのバランスは良いのだが、一部で「何故漢字にしたんだろうか?」という部分があった。特に「確り(しっかり)」など、ルビも振られていないので、読み方を知らない読者からしたら読み飛ばしてしまう箇所だ。
平素ひらがなで表記される部分については、漢字にせずにひらがなにして欲しいなぁというのが正直なところ。
読めるっちゃ読めるが、気になって文章の流れが途切れてしまうように感じてしまった。
僕だけかもしれんけどね。でも割と、文章の流れをぶった切ると勢いが削がれちゃうから、意識はした方が良い部分だったりはするんだな、これが。
会話文の中に会話文がある
前述した漢字に併せて気になったのがこれ。
会話文の中に会話文があると言われてもピンと来ないかもしれないが、要は「キャラクターが何かを喋っていて途中で別キャラクターが口を挟む」シーンだ。
「この洞窟では数年前に殺人事件があって「しっ、黙って!」それで幽霊が……」
みたいな感じ。適当に作ったから粗悪ですまん。
言葉なんてものは生き物だから、こういう表記もいいとは思うのだけど、視覚的には強烈な違和感を覚えた。
会話分を分けられなかった理由があるのか、それとも行数の都合なのかはわからないが、個人的には分けて表現して欲しかったな、というのが正直な印象。
僕も大して本を読んでいるわけではないので偉そうには言えないのだが、見たことがなかったので一瞬戸惑った。こういう表記はあるんだろうか? 夢枕獏あたりならやってそうだけど。
山場がかなりあっさり
物語がどうにも平坦だった。主人公がぐいぐいと物語を引っ張っていく場面が多いため、山場になると主人公の出番がほとんど無くなってしまうのが、どうにも気になった。
いやそこは主人公にもっと活躍させてくれよ! と思ってしまうのだ。
主人公だからこそできること――ふたつの選択肢しかないのなら三つ目の選択肢を作る、みたいな「主人公がいるからこそ事件が解決できた」という切り口が足りなかった。
周囲に強力なキャラクターたちがいるからこそ、主人公を立たせることでその存在感を出して欲しいと思ってしまうのだ。物語が主人公の視点で進んでいくので、余計にそう感じてしまう。
最大の魅力は情熱
ここまで書いておいて何だが、僕がこの作品を通じて一番魅力だと感じたのは、作者キヨ氏の情熱だ。キヨ氏はあとがきでもずっと「TS深闇勘違いを広めたい」「ケモミミ万歳」と言っている。
『TS狐娘は語られたい』通して読んでいて、その想いがずっと伝わってきていた。作者の「好き」という情熱がつまりにつまった作品なのだ。
悪いところは数あってもいい。
それでも僕が記事にまでして書きたいと思ったのは、この一点。
「作者の好きが伝わってくる」
たったそれだけで、どんな作品にも勝る魅力を、この『TS狐娘は語られたい』は持っている。
その情熱が、とても心地よい。
例えるならそれは、同人誌即売会で本を手に取った時の感覚に近い。あの時に感じた見知らぬ誰かの「好き」という気持ちや情熱。
何物にも代えがたい気持ちだからこそ出せる味が、確かにある。
――ああ、この作品が好きだな。
そう思えたのは、間違いなく、気持ちが伝わってきたからだ。
まとめ:作者の好きで溢れた作品。それが『TS狐娘は語られたい』
『TS狐娘は語られたい』は、僕の感覚で言えば立ち位置は同人誌に近い。個人出版でもあるのだから当然といえば当然だ。
しかし、だからといって悪いわけじゃない。
個人出版だからこそ表現できたことが詰まっている。
それこそが魅力だと思うし、出版社を通した作品ではなかなか見られない強みでもある。Amazonも面白いマーケットを作ってくれたものだ。
TSや獣っ娘に抵抗がなければ楽しめる作品なので、少しでも興味を持ってくれた人は、是非一度読んでもらえたらと思う。
僕も4巻を楽しみに待つとしよう。
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